こんな生まれ変わり信じますか?

子猫 エピソード

 

母を亡くして以来、父は一人で家の留守番をし、仏壇の世話をしてきた。

一日中一人きりで、母の写真ばかり眺めていて、よく痴呆にならなかったと感心する。

父は、明治生まれの大工職人である、持ち前の頑固さと責任感の強さで、人間としての誇りを固持してきたようだ。

 

その父がある日を境に、家の中や散歩途中で倒れることとが続いた。

父は82歳になっていた。

私は仕事を辞めて、父の世話をすることにした。

 

いつかこんな日が来ると思ってはいたが、華やかで賑やかな職場とは一変して、無口で陰気な老人と向き合う毎日。

朝から晩まで、ひと言も発しないことも多く、会話どころか笑顔をつくることさえできなくなっていた。

 

退職から数日経ったある日、買い物に出て友人に会った時、ある現象に愕然とした。

言葉が出てこないのだ。

なんとか相手の名前だけは出たが、次の言葉が出てこない。相手の話にただ生返事を返し、逃げるように家に帰った。

言語障害、あるいは対人恐怖症か、そんな病名が頭をよぎった。

 

毎日大勢のお客様や百名近い同僚と、騒々しい位の会話の渦の中にいた私。その反動が、急激な環境の変化で表面化したのだろうか。病院に行くべきかどうか悩んだ。

せめて、犬か猫でもいれば話しかけることもできるのに。

 

そんな話をしただけで父は反対した。

「死ぬからだめだ」訳の判らぬ理屈を添えて、かたくなに話を遮る。

何度も父を恨みたくなった。

 

酔って機嫌のよい時だけ、父は話しかける。

「買い物に行くか。酒を頼む」

スーパーは近い。父は自分で行くことが多いのだが、天気が悪い時、雪などで道が悪い時、そんな時だけ話しかけ頼んでくる。

 

老いた父にあまり反抗はできない。顔のしわも増え、少し痩せたようだ。

だが、会話のない生活にも限界を感じていた私は、一人悶々としていた。

気楽に笑えて話せる相手がほしい!

 

ミーコと出会ったのはそんな時だった。

たまたま姪の家に行った時、もらい手を探している仔猫がいた。小さな身体を更に小さく丸めて、部屋の隅にいた。

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仔猫が、何気なく覗き込んだ私を見上げた。

「ミャー」細い声が訴えた。

「おばちゃん、私をつれていって」

私はその場で決断した。

この子は私の子だ。

勝手に決めて、仔猫を引きとった。

 

案の定、動物嫌いの父は猛反対した。

「茶の間に置くな。二階に置け」

頑固さはいまだ健在だ。しかし何を言われても私の気持ちは怯まなかった。

柔らかな背中を撫でているだけで心が潤う。

すっかり安心したのか、仔猫は膝の上で安らかな寝息をたてている。小さな幸せが私を包んだ。

仔猫は女の子だった。ミーコと名づけた。

ミーコはすぐ懐き、我が家に来た日から一緒に寝た。

 

一週間もしないうちに、驚くようなことが起きた。

私の留守の間にミーコが父の傍に行き、足元に並んで、時には父の足に頭を載せて昼寝をしているのだ。

父が歩くと家中付いて歩き、トイレの前でちょこんとお座りして待っている。

朝、父が起きてくると、自分が寝ていてもミーコは父の足元へ走り寄り、小さな頭を擦り付けてゆく。

 

シッ!シッ!と手で払ってもミーコは父に付きまとう。必死な様子に見える。

そんな仔猫の姿が愛おしくもあり可笑しくもあり、久しぶりに私は笑った。

父はと見れば、なんと、父も笑っているではないか。

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あれ程、反対して傍へ寄せ付けなかった父が、全身で擦り寄り、甘えた声を出している猫を見て笑顔になっている。

無邪気な笑顔に私は感動した。

 

小さなミーコが、80年以上も動物嫌いだった頑固親父の心の扉を開かせたのだ。

そして、私たち父娘の仲を柔らかくとりもってくれたのである。

 

父の膝やお腹の上で昼寝をするミーコ。

長い尻尾を追いかけ、くるくる回る姿が親子に笑顔をプレゼントしてくれた。

「これが、可愛いんだ」

ミーコがじゃれて、父の手を引っかいても怒らない。手を撫でながらそう言う。

 

寒い冬に、ミーコがベッドにしている椅子で寝ていると、タオルを掛けてやる父。

「寒いか、これでいいか」

私でさえ聞いたことのない言葉を、ミーコに掛ける。不思議だった。

 

でも、以前、そんな父の言葉を聞いたことを思い出した。

それは、母が病気で何度も寝込んだ時で、父は優しく声を掛けていた。

「大丈夫か、いたくないか?」

 

私は、小さな猫の見えない力で、父が善良で優しい人間であったことを改めて思い知らされた。

二人でいると、頑固で融通の利かない部分だけを見てしまっていたのだ。

 

ミーコが家族になって8年目の冬だった。

父は96歳で波乱の生涯を終えて永眠した。

棺が家を出る時、ミーコは廊下に座り静かに父を見送った。

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私には、その姿がまるで母のように見えた。

そう、ずっと思っていた。

昼寝をしている時も、庭の花を見ている時も、ミーコは母の持つ独特の表情と雰囲気を漂わせていた。

 

もしかして、ミーコは母さんだったのだろうか。

きっと、母がミーコという猫に変身して、この世に戻ってきてくれたのだ。

父と娘を心配して、親子の仲をとりもつ天使になって。

 

私はミーコに深く感謝し、生涯大切にすることを父に誓った。

「ペットと私」から引用

 

こんな生まれ変わり信じますか?

 

 

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